おじさんがあきれたように笑った。
「おまえは泣いてばっかりだな」
だって、おじさんが言ったんだ。泣き虫でもいいって。
あたしの頭を抱き寄せ、ぽんぽんと優しく撫でてくれた彼の背中に思わず手をまわす。力いっぱいしがみつく。
そして泣いた。わんわん泣いた。おじさんのシャツがぬるいしずくで濡れていくのがわかる。
「心配しなくても俺は大丈夫だから。よもぎもいるんだし」
耳元で、低い声が言った。まるで心を見透かされているみたい。
「……なあ、おまえは優しいな。ありがとうな。祈、俺のために泣いてくれるのは、たぶんもう、おまえだけだよ」
泣くよ。いくらでも。その心に灯りをともせるのなら。少しの救いになるのなら。このしょっぱい水滴が枯れても、おじさんのためにあたしは泣く。
佐山和志は、悲しい男。さみしい男。それでいてとても優しい男。
あたしの、好きな男。
「……あたし、絶対に後悔する」
「なにを?」
「ここを出ること。でも、きっと……おかーさんのところに帰らなくても、後悔する」
「そうか」
人生はニガイ選択ばかりで、嫌になるね。
「和志さん、あたし、どうしたらいいかなあ? 正解がわかんない。わかんないよ……」
卑怯なことを言っているって、わかってる。でも絶対に間違えたくないんだ。ここだけはなんとしても正解を選びたいんだ。
おじさんが引き止めてくれるなら、あたしはここに残る生活を選ぶと思う。でも、おじさんがそんなことをしないひとだって、あたしはもうじゅうぶんすぎるくらいに知っている。