そういうことを言ってほしいわけじゃなかった。むしろいちばん聞きたくなかったことかもしれない。いっきに心が冷え冷えしてる。そして、しんしん凍えていく。

きっと、あたしがいなくたって文化祭や体育祭はやるんだろうし、修学旅行にも行くんだと思う。ふつうに、なんの気がかりも、引っかかりもなく。卑屈になっているわけでも、達観しているわけでもなく、そういうものだと思う。

米田は小学校の先生のほうが向いているんじゃない?


「中澤は勉強だってできるんだし、いい大学にも行けると思う」


よほどあたしが嫌な顔をしていたのか、米田が焦ったように言った。


「いい大学に行って、なにがあるの?」


思わず聞き返してしまう。


「うーん……そうだな、自分の武器になるよ。自信にもなるし……」

「それはどうしても手に入れなきゃいけない?」


すごく子どもっぽいことを言ってるなって、我ながら感心する。嫌になる。うんざりする。ろくに高校にも通えていないクソガキが、エラそうに、よく言うよ。


それでも、口にしたのは、素直な、率直な疑問だった。

いい大学を出ないと自信はつかないの? 武器は持てないの? 武器は必要なものなの? なんのために? 誰をやっつけるために?


「祈、私はね」


空気を正すように、おかーさんが声を出した。

あからさまに困った顔になった米田と、むずかしい顔をしている校長に、おかーさんは申し訳なさそうな視線を向ける。すごく嫌な気持ちになった。

おかーさんがそんな顔をする必要ないのにって思う反面、そうさせてるのは自分だって思うと情けないよ。ごめん。


「もちろん学歴は大切なことだと思うけど……絶対にいい大学に行けとか、そういうのは少しも思ってない。それは先生方も同じだと思うんだ。学歴は大切、でも決して“すべて”じゃないってこと、祈ももうわかってるみたいだね?」


おかーさんがあたしのほうに向き直った。