水色の車に乗りこんでから校門をくぐるまでは20分もかからなかった。おじさんちと学校はけっこう近いんだ。知らなかった。


学校の駐車場でおかーさんと落ちあい、ふたりが職員室で入構許可証をもらっているあいだ、ぼんやりグラウンドを眺めていた。

野球部が練習してる。みんな白いユニフォームが土で汚れてる。時折、気持ちいい金属音が鼓膜を揺らす。バットがボールを打つ音。

体育館のほうからも声が聴こえた。バレー部……それともバスケ部かな。この時期の体育館は信じられないくらい暑いんだろうな。


土曜日の学校って、ちょっと違う空間みたいだ。

うるさいけどすごく静かで、学校なんだけどそうじゃないような感じ。異世界というよりパラレルワールド。部活をしているひとだけがこの不思議な感覚を体験できるのかと思うと、特別な気がする。


下駄箱にはちゃんとあたしの上履きがあった。でも、おかーさんとおじさんと同じに、なんとなくあたしも来客用のスリッパを履いた。


廊下を進む。生物室があった。音楽室があった。家庭科室も、美術室もあった。当たり前だけど、全部2か月前と同じ場所だ。壁にあるラクガキも変わらない。

もちろん2年5組も以前と同じところにあった。廊下にならんでいるロッカーも同じ。右から6番目、上の段。あたしのロッカー。


「お忙しいところ、すみません」


ふと、教室のなかから声がした。正確にはドアのところ。そこには米田と、集会のときにしか見ない校長がいて、おかーさんと頭を下げあっていた。