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私服でもいいって米田は言ってくれたみたいだけど、なんとなく制服を着ることにした。ローファーとかも一式、おかーさんに持ってきてもらった。

およそ2か月ぶりに袖を通す制服はいつの間にか夏服に変わっていた。カッターシャツとネクタイ、それから涼しい生地のスカート。ネクタイとスカートは、紺色よりも少し明るい青のチェック柄で、制服のデザインはやっぱりなかなか好きだなあと思う。


姿見のなかで突っ立っている自分を見る。なんだろ、違和感というか、制服ってこんなだっけね? ヘンな感じ。制服を着ている自分は、なんだか自分じゃないような気がするよ。

ネクタイを3回くらい締めなおした。どうにもしっくりこなくて。


「祈、そろそろ出るぞ。面談11時からだろ」


ドアの向こうからおじさんに声をかけられた。

ちらりと、学校指定のスクールバッグを見て、迷ったけど持っていかないことにした。なにを入れるか思いつかなかったから。

ポケットにスマホだけ突っこんでドアを開けると、すぐ目の前におじさんがいた。


「高校生みてえだな」


あたしの姿を見るなり、真顔のまま、本気なのか冗談なのかわからないトーンでおじさんは言う。


「みたいじゃなくて、そうなんだよ」

「そうだったな」


そういえば、制服姿、はじめてなんだっけ。見るのも見られるのも。

いっきに恥ずかしさみたいなむずがゆい感じがこみ上がる。

おかしくないかな? 似合ってる? とか、聞いてみたい気もしたけど、肯定されるのも否定されるのもなんとなく嫌で、黙ってた。