「俺も行くから。行こう、祈」


どうしてこんなにも安心するんだろう。ただおじさんが声を出しただけなのに。どうしてこんなにもほっとしているんだろう。

すうっと体から力が抜けていく。その低い声が、全身を縛りつけていた鎖をほどいていくみたい。


「うん」


考えるよりも先に、縦に首を振った。あれこれ考えていたら戻ってこれなくなるような気がした。


「おかーさんは? 来る?」

「もちろん行くよ。祈が嫌じゃないなら」


嫌なわけあるもんか。


でも、ごめんね。

手のかかる娘でごめんね。自分でなにも決められない子でごめんね。メンドイって思われていたらどうしようとか、この期に及んでそんなしょうもないことを考えていて、ごめん。

あたしはガキだな。おじさんと暮らし始めてから何度も思ったことだ。


「ありがとう」


ぽつりと、とても小さな声でつぶやいて、うどんをすすった。汁を吸った麺が信じられないほどやわらかくなっていた。

おじさんがあたしの頭を撫でた。
おかーさんはとても優しい目であたしを見つめていた。

泣きそうだ。


きっとあたしはいま、人生においてすごく重要な場所にいて、大きな選択を迫られているんだと思う。

たぶん、ここが、分岐点。ターニングポイント。

そう思うと、体が震えた。