「今度おかーさんにもつくりかた教えてね」
なんとなしに言ったんだろうけど、なんとなく心にくる一言だった。
今度って、いつだろう? あたしがウチに帰ったら? それっていつだろう?
もやもやしたなにかを飲みこむようにおもいきりうどんを吸いこんだ。むせた。麺類をすするのは苦手だってこと、すっかり忘れていた。
「……祈、あのね」
ひとしきりむせ終えたあたしに、おかーさんが少し笑って、それから口を開く。おじさんはあたしの左側で黙ってうどんをすすっていた。
「きのう、米田(よねだ)先生から連絡があってね」
米田というのはうちのクラスの担任だ。男。担当科目は日本史。サッカー部の顧問。若くてさわやかだから女子生徒に人気があるけど、趣味は城めぐりらしい。日本史担当っぽい。渋い。
ちょっと頼りないところもあるけど、生徒思いの、いい先生だよ。
「そろそろ出席日数が足りなくなってくるんだって」
おかーさんは困ったように笑って言った。
あたしはうなずいた。
「このままだともう1回、2年生をしなくちゃいけないんだって」
「うん……」
「一度、面談がしたいって言ってたよ。祈ときちんと話がしたいって」
米田の顔を思い浮かべた。ふにゃっとした、人のよさそうな面長。
気が弱いからか、いつもなんだかんだと生徒にイジられては困った顔をしていたっけね。必死で、空回りが多くて、でもすごく愛されてる。生徒ってキライな先生にはかまったりしないもん。米田はすごく愛されてる。
それは米田がいつも生徒のことをいちばんに考えているからだ。それがひしひしと伝わってくるからだ。