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おかーさんの好物はすき焼きなんだと長年思っていた。いつもなにかとすき焼きをしたがっていたから。

でも実際はそういうわけでもなくて、本当はうどんが好きらしい。ネギと天かすを乗っけただけの冷たいやつ。質素なやつ。

ランチもほとんどうどんだって言ってた。会社からすぐのところにあるお店がとてもおいしいんだって。

なんだか笑ってしまった。派手な見た目をしているのになって、思わずにはいられなかったよ。こんなのうどんに失礼だ。



「いただきます」


おじさんちにあった重たいどんぶりに向かって、おかーさんがうやうやしく手を合わせた。


「祈のゴハン、楽しみだな」

「うどん茹がいただけだよ」

「さては祈、うどんの奥深さをわかってないね?」


きょうの夕食はうどん。冷たいぶっかけうどん。おかーさんのリクエスト。なにも言わないで突然やって来たんで、急きょメニューを親子丼から変更した。おじさんが気を利かせていっしょに天ぷらも買ってきてくれた。


「ていうか、もしかしてランチもうどん?」

「きょうは後輩のリクエストでカレーだったの。それもナンがバカみたいに出てくるような本格的なところでね」


おかーさんはちょっとむずかしい顔でそう言って、一口めをすする。カレーはあんまりおいしくなかったのかもしれない。本格的なカレーってどんななんだろ? やっぱり日本人の舌には合わないのかな。

キレイな顔があたしのほうを向いていた。眉毛が限界まで上がって、目をぐわっと見開いて、おかーさんはあたしをじっと見つめてくる。


「ねえ祈、ほんとに上手にゴハンつくれるようになったんだね。おいしいよ!」


そうかな。でも本当に、あたしは麺を茹でただけなんだけどな。

そんなふうに言ってもらえるならもう少し手の込んだゴハンをつくりたかったよ。ハンバーグとか、トンカツとか、ビーフストロなんちゃらとか。