こんなことをおじさんに吐きだしてなんになるんだろう?
でもおじさんはきっと肯定も否定もしない。賛同も反対もしない。学校に行けとも、行くなとも言わない。だからといって好きにしろと投げだしたりもしない。
おじさんはいつだってなにも言わない。なにも言わないで、あたしを傍に置いてくれる。
たぶんあたしたちがそういう関係だからだね。
この男は、あたしの父親でも、兄でも、恋人でもない。不格好でヘンテコな関係。でも心地いい関係。
おじさんは机の向こう側から手を伸ばして、一度だけあたしの頭を撫でた。撫でたというか、触ったみたいな感じ。
「ああそうだ。今度、俺の師匠みてえなひとが個展やるんだけど」
そして唐突に話題を変えた。いつの間にかお弁当はほとんどなくなっていた。
シショー。おじさんにもそういう存在がいるんだ。やっぱり職人の世界ってそういうのがあるんだな。おじさんがいなかったら踏み入るどころか、きっと一生知ることのなかった世界。個展だってそうだ。
「おまえもいくつか出展してみるか?」
「シュッテン?」
なにを?
「せっかく毎日アトリエに来て、なのに見てるばっかりじゃつまんねえだろ。俺もちょっと出させてもらえるらしいから、おまえがその気ならそういうのもおもしろいんじゃねえかと思って」
シュッテン……。よくわからないけど、おじさんといっしょにする染めものはいつも楽しいし、それくらい気楽なものならちょっと興味あるかも。
それに、なんにもないあたしにも、そこで“なにか”が見つかるかもしれない。
そう思うと、なんだかそれってすごく意味のあることなんじゃないかって思った。
「うん……おもしろそう」
勢いだけでうなずくと、おじさんも同じように首を縦に動かした。わかったって、低い声で言われた。
「おシショーさんってどんなひと?」
「コワイじいさんだよ」
うへえ、なんだよ。ぜんぜん気楽じゃなさそうじゃん。