「おまえはいつまでここにいたいと思ってんだ」


おじさんは箸を置いて言った。ちょっとまじめな言い方だった。


「そんなの、ずっといたいよ」


おどけたように返事をしたのはわざとだ。


「ずっとってなんだよ」

「死ぬまで」

「バカか」


もちろん半分は冗談だよ。
それでも半分は本気。

おじさんは受け流すみたいに少し笑って、またお弁当を食べ始めた。


「……ねえ。あたしって、なんにもないじゃん」


言葉にするとずっと重たい。なんにもない。

サユや三宅には水泳があるのに。おかーさんには仕事があるのに。おじさんには、染めものがあるのに。

あたしにだけ、なんにもない。


「将来の夢もない。それどころか、学校にすら……ちゃんと行けてない」


それをワルイコトだとも、間違ったことだとも思わないけど。

でも決して正しいわけではないってことも、ほんとは知っている。


あたしは、いつまで逃げるんだろう?

いつまで“あっち側”を毛嫌いするんだろう?

いつまでおかーさんやおじさんに甘えるつもりなんだろう?


「学校行って夢を持つことだけがエライってわけじゃねえよ」


おじさんは言った。はっきりと、凛々しい声で。そこには大人の威厳さえあるように思えた。少しナナメの正義がおじさんのなかにはあって、こういうのを信念っていうんだろうなって思う。