「そろそろメシにするか」
てきとうなところで作業を切りあげたおじさんが言った。
いちばん大きな机を片付けてふたりぶんのお弁当を広げる。お重みたいなそれに詰まっているもの全部、わたしの手作りだ。こうしてアトリエにお弁当を持ってくるのも最近は日課みたいになった。お弁当箱はわがまま言って買ってもらった。
最初のうちはぜんぜんダメだったよ。なにをどんなふうに詰めたらいいのかわからなくて、スッカスカのクソまずいお弁当しかできなかった。いまはちょっとマシ。
それでもおじさんは毎日全部食べてくれる。相変わらず、オイシイとも、マズイとも言ってはくれないけど。
きょうはしょうが焼き弁当にした。おじさんの好物。
ほかにもいろいろ入っているよ。きんぴらごぼう、きゅうりのごま和え、エトセトラ。たまごやきは毎回入れるけど絶対に甘くないやつ。甘いのはどうしても苦手なんだ。
それにしても、味付けのりをぐるりと巻いた俵おにぎりを頬張るおじさんの食べる姿を見て、やっぱりとてもきれいだなあと思う。
「箸の持ち方とか、食べ方とか、いちいち品があるよね。マナーとかむずかしいことはあんまりよく知らないけど」
早口で言って、きゅうりをぼりぼりかじった。
おじさんはのんびり口を開いた。
「まあ、親がいねえからってナメられたくなかったし」
ちょっとわかる気がする。そういう変なところをわかってしまうこと、どこかでうれしくも思っている。