朝のアトリエは独特のにおいがする。

木の湿ったようなにおい。草を乾燥させたようなにおい。なんだかなつかしいような気もする、新しい香り。

少し車を走らせればイマドキの都会の景色が広がる街に、こんなにも穏やかな空気が存在しているって、たぶんとても貴重なことだね。


黙々と作業をしているおじさんを、少し離れた場所からぼうっと眺めていた。きっとあたしの存在なんかすっかり忘れてる。それくらい作業に没頭しているおじさんの真剣な横顔が好きで、気付けば何時間もたっていることだってある。

いつもはやる気のなさそうな顔が男らしくなるんだもん。額に汗をかいたりもしてる。どきっとする。


「楽しいか?」


手を止めたおじさんが、こっちを向いてあきれたように言った。


「楽しいよ」

「見てるだけだろ」


おじさんはなんにもわかってないな。そういうのが、いいんだよ。


「おまえもこっちでいっしょにしたらいいのに」


いままでもたびたびアトリエに遊びに来ることはあったけど、最近はほとんど毎日、こうやってついてきている。邪魔だったりしないのかなとも思うけど、おじさんはいつも連れてきてくれる。そしてずっとこうして傍に置いてくれる。

たまによもぎも連れてくるよ。そういうときは駐車場でいっしょに遊んだり、河川敷が近いので、よもぎとふたりで散歩をして帰ってくることもある。


こういうのがずっと続いていけばいいな。穏やかで優しい毎日が、ずっと。

でも最近、同じくらい不安になる瞬間が、たまにあるんだ。