「祈が泣くことじゃねえだろう」


気づけば涙がぼとぼと落ちていた。それをぬぐおうと手を伸ばしてくれた彼を、先にあたしが抱きしめていた。


「消えないよ」


そして言った。こみ上がってくるおえつを噛み殺して、一生懸命に声を出した。なにがなんでも伝えたかった。

おじさんの体がこわばっているのがわかる。大きな体。でもとても、とても小さな体だ。


「あたしは、消えない。和志さんの前から絶対、絶対に消えたりしないっ」


消えない。おじさんが消えてなくなるその日まで、あたしだけはずっとここにいる。

ほんとだよ。一生をかけて証明したっていい。そんなバカげたこと、けっこう本気で思っているよ。


腕にぎゅっと力をこめる。おじさんのうなじのあたりをつかんだ。痛いくらいに強い力で。あたしの存在を知らせるために。彼の存在を確かめるように。


「ああ……そうだな。おまえにまで消えられたら、さすがに困る」


それはどういう意味?

あたしがいなくなったら、おじさんは困る? 困ってくれるの?

それは、あたしが少しでもおじさんにとって意味のある存在だって、うぬぼれてもいい?


「ありがとうな、祈」


あたしの髪を撫でながら、おじさんはとても優しい口調で言った。それはいつもの子どもをあやすみたいなのとはちょっと違う。


「なあ、もう、泣きやめよ」


あたしはこの男のことがどうしようもなく好きなんだと思った。いままでのどんな“恋”とも似ていない、この気持ちは、もっと特別な想い。

シクシク胸が痛むけど、この世でいちばんあたたかなもの。