「ミナさんは……どうして、亡くなったの?」
踏みこんでもいいことなのかわからなかったけど、おじさんの顔を見ていたら、なんだか聞かずにはいられなかった。
「ああ……あいつも交通事故だよ。さくらの散歩中に信号無視のトラックにはねられて、未奈もさくらもそのまま。よもぎはここで俺と寝てて無事だった。
よりにもよって俺が二日酔いでぶっつぶれてた、日曜の朝に起きた事故だったし、正直すげえ後悔してる。普段はふたりで行く散歩をひとりで行かせたのが間違いだった」
おじさんは、ひとりだ。
「未奈はそんな理由で死んでるし、両親は飲酒運転のクルマにやられてるし、俺はそれから酒がめっきりダメだな」
この男は、なんでもない顔で語るけど、あんまりにもひとりぼっちだ。
だからずっと閉ざしてきたんだ。もう誰も失わないように。
きっと婚約者のこともすごく愛していて、だからこそ破談にしたんだ。大切な存在だったから、自分の手で消したんだ。消えてしまう前に、消したんだ。
だってこわいに決まってる。臆病になるよ。おじさんは、あまりに多くを失くしすぎてる。
でもおじさんは、こわいってことを婚約者に伝えられなかったんじゃないのかな。誰にも伝えられていないように思う。
おじさんってそういう男だよ。不器用な男。大切なものを失ってきた、さみしいひと。
いとおしい――と、思った。
そんな気持ちはよく知らないけど、きっとこれがそうなんだってなんとなくわかった。
いとおしい。
佐山和志という15も年上の男が、こんなにもいとおしくてしょうがない。