じっと見下ろしていた。おじさんのこと。見失わないように、見ていた。
「……もうわかったよ。そんな顔すんな。ここ座れ」
なにが『わかった』のかわからなかったけど、おじさんはあたしを隣に座らせてくれた。触れるか触れないか、ぎりぎりの距離がもどかしい。左肩が熱い。
「ごめんなさい」
かすれた声が出た。でもやっぱりその言葉はどうにも軽々しいように聞こえて気持ち悪かった。おじさんは黙っている。
「勝手に勘違いして……言いたくないこと言わせた。ごめんなさい」
おじさんの右手があたしの頭を撫でた。そしたら気持ちがあふれて止まらなくなった。
自分の幼さと軽率さに嫌気が差す。それをまるっと受け止めてくれる手のひらがどうにも心地よくてうんざりする。
やっぱりあたしはクソガキで、この男はクソジジイだって思った。あたしの頭と彼の手のひら、その隙間には15年ぶんの差があるんだって。埋まらない差。ふたりのあいだにある、時間という、大きくて小さい宇宙。
「和志さんのことが知りたい」
はじめて口にした。
「好奇心とか興味本位とかそういうんじゃない。もっと違う……うまく言えないけど、ちゃんとした理由があるよ。和志さんがなにを見て、なにを感じながら生きてきたのか、あたし、知りたいんだ」
ずっと言えなかったことなのに、どうしてこうもすらすらと言葉が出てくるんだろう。
気恥ずかしさとかそういうのはまったくなかった。不思議なくらい。気持ちが自然と言葉になっていく感覚。
「おまえは普段ぐねぐねにひねくれてるけど、ときどき素直すぎる目をするから、困る」
おじさんは息を吐いて言った。もうかんべんって顔だったけど、さっきみたいにかたく閉ざされている感じはしなかった。