おじさんってたぶん、特別モテるってわけじゃないんだろうけど、それなりに女性に困らないくらいだろうとは思う。それに若いころはもっとかっこよかったみたいだし。
だから直感的にわかった。
おじさんはこの7年間、恋人ができなかったんじゃなくて、あえてつくらなかったんだって。
それは、心のなかに大切な――忘れられない女性がずっといるからなんじゃないのかって。
「どうして結婚しなかったの?」
「べつに、したくなかったから」
「じゃあどうして恋人つくらないの?」
「必要ねえからだよ。うるせえな、おまえ、きょう」
おじさんはあきれたように笑った。もうたくさんだっていう感じの笑い方。やんわりと拒否されているのがわかる。
すごくくやしかったし、悲しかった。強引にこじ開けてでもそこに行きたいって、閉ざされるほどに思うものだよ。気になるよ。
これは好奇心なんかじゃない、もっと大きな衝動だ。
「和志さんはウソツキだね」
たまらず、そう吐き捨てて自分の部屋に向かった。引き出しをあけ、裏返したままの白い紙を引っ張り出す。
ソファに座ったままのおじさんにそれを突きつけると、彼はとても驚いた顔をした。
「……おまえが持ってたのか、それ」
写真、やっぱりずっと探していたんだ。きっとすごく大切なものなのに、返せないままで、ごめんね。
「このひとのこと忘れられないんじゃないの? すごく好きで……なにか理由があってお別れしなくちゃいけなくて、でもこのひとのこと忘れられないから、7年間も」
「ちげえよ。憶測だけで勝手に暴走すんな」
おじさんがほんの少し声を荒げた。こんなしゃべり方をされるのははじめてで、思わず怯むと、彼は眉間に皺を寄せて長く息を吐いた。
「――妹だよ。7年前に死んだ俺の妹」
頭のてっぺんから電流を流されたような衝撃だ。いま、なにか大変なことをしでかしているんじゃないかって、自分の浅はかさにぞっとした。