「ガキどうしの色恋に興味もってどうするんだよ、32歳のおっさんが」
こんな話を切り出すんじゃなかったって、一瞬のうちに後悔した。
子どもっぽいことなんか言うんじゃなかった。一歩を踏みこむのなんか、やめておけばよかった。サイテーだ。
恥ずかしい。消えたい。泣きたい。むかつく。
でもおじさんは、そんなあたしになんかおかまいなしで、やっぱりなんでもない顔をしてる。
「和志さんは、同い年以外の女の人と付き合ったことがある?」
そんなことを突拍子もなく訊ねてしまったのは、純粋に気になるのもあったけど、どうしようもない恥ずかしさをかき消すためでもあった。
「なんだよ、それ」
「答えてよ」
おじさんは少し考えたあとで、あるよ、と言った。照れとかそういうのなんか微塵もない、落ち着いた声だった。
「上はねえけど、下なら」
「いくつ離れてた?」
「3つだったかな」
3つ下。いま29歳だ。それがあの写真の女の人かもしれない。それとももっと別な女性なのかもしれない。
「じゃあ、恋人、いままでに何人いた?」
「そんなの覚えてねえよ」
「覚えてないくらいたくさんってこと?」
「バカか」
おじさんは大きなため息をつく。
「ねえ……いま、いる? 恋人。いる?」
「いっしょに住んでてそんなこともわからねえのかよ、おまえ」
「いないの? いつからいないの?」
おじさんは心底うんざりって顔をしている。でもちゃんと答えてくれる。答えないともっと面倒なことになるって思っているんだと思う。
「さくらが死んでからだから、もうかれこれ7年くらいだな」
7年って、けっこう重みのある年数だよ。25歳のころからずっと恋人をつくっていないって、おじさんがふつうの男なら、きっとタダゴトじゃない。