あたしがどうにもむっつりしていたのか、おかーさんはまた笑った。


「しょうがないんだよ。大人だからね」


なにがしょうがないんだろう?
大人って、なんだろう?

17歳ってのは子どもかな?

大人のおかーさんにとって、17歳の小娘が学校をズル休みしちゃったことは、至極どうでもいいことなのかな?


いつの間にかココアを飲み終えていたおかーさんがキッチンに立った。どうやら洗い物をしてくれるらしい。

だからあたしもあわててマグカップの中身を飲み干した。まだ熱い茶色が勢いよくのどを通りすぎて、火傷するかと思った。



「……ねえ」


じゃぶじゃぶ泡立っているシンクにマグカップを置きながら、口を開いたのはあたしのほう。


「ん?」

「学校、べつにすごい楽しいわけじゃないよ。ぜんぜん好きじゃない」

「そっかあ」


学校ってけっこう、毎日なんの変わりばえもない、同じことの繰り返しだね。

眠たい頭で朝のHRを終えて、4時間目までノートとって、お昼は友達としゃべりながらごはん食べて、また6時間目までノートをとる。それだけ。それ以上もそれ以下もない、ほんとになんにもない生活。


「でも、嫌いってわけじゃないの」

「うん」


ああ、どうしてこんなにももやもやするんだろう。

するりと指先がすべった。やがてマグカップがシンクに落ちる。ゴン、にぶい音。でも割れなかった。年季が入っているわりにけっこう丈夫なんだな。