三宅の言っていることはわかる。それが恋愛においてとても重要なことだってのも、わかっているつもりだ。

ただ、胸は張り裂けそうでも、心は少しも動かされなかった。


だって、真ん中に、おじさんがいる。

あたしの世界を鮮やかに染めあげるひと。まだその全貌が見えないままの、優しい男だ。


「ごめん、三宅。いまのあたしにそんなのはなんの価値もない」


そんなふうにあからさまに傷ついた顔をされると、こっちが悪いことをしているみたい。


「三宅の言ってること、わかるよ。不毛な気持ちだって思ってるし……そもそも『好き』なのかも、ほんとはまだわかってない」


三宅は黙って聞いていた。そういえば、手、ずっとつないだままだ。


「でも、あの男はたしかに、いまのあたしに必要な存在なの。どうしても気になって仕方ないの。傍にいたいし、いてほしいって思ってる。だから、ごめん。ありがとう、三宅、本当に」


こんなつまらない女を好きになってくれて、ありがとう。驚いたけどうれしかった。ほんとだよ。

三宅は黙ったまま、一度だけ首を縦に振った。それと同時に手が外れた。


「お見舞いも、来てくれてありがとう。……大会、がんばって」

「……うん、そうだな、ありがとう、がんばるよ。それと、お母さんお大事にな」

「うん、ありがと」


アリガトウをバカみたいに言いあった。ぎこちない空気を少しでもやわらげたかった。


「じゃああたしそろそろ戻るね。三宅は?」

「おれはこのまま帰るよ。あしたも朝練あるし」


あたしがきびすを返しても、三宅はそこから動こうとする素振りさえ見せなかった。ならんで歩くのはものすごく気まずいだろうって、たぶんお互い同じことを考えてるんだ。

だからあたしはそのまま歩きだした。前を向いて。振り返らないで。


「中澤っ」


背中越しに、三宅の強い声。体育会系の声。


「学校、来いよ。気が向いたときでいいから。待ってるからなっ」


こんなことを思ってしまうのはきっと反則だけど、おじさんと出会っていなかったら、あたしは三宅のことを好きになっていたと思う。そのまっすぐさはあたしにはないものだから、きっと、そういう三宅を好きになってた。


早くおじさんの顔が見たい。