三宅が足を止める。ただついていくだけのあたしの足も同じように止まっていた。それはあたしの意思とは関係ない動きみたいだった。
ひとけのない場所だ。ここが病院のどこかなんてわからないし、たぶん三宅も知らないと思う。ひんやりとした空気がショートパンツから伸びている脚を撫でた。
「こないだ、ごめん」
いきなり言われた。ショッピングモールでのことだって思った。
「ヤな思いさせたよな。あいつ……中澤が学校来なくなってから付き合い始めたんだけど、おれが中澤と仲良いのをずっとよく思ってなかったみたいで」
「ああ、うん……。なんとなくそうかなとは思ってた。でもそんなの三宅が謝ることじゃないよ」
あれからもうずいぶんたつというのに、まだ気にしてくれていたんだな。なんだかちょっと申し訳ない気もする。
それにしても女ってのはコワイ生き物だよ。名前も知らない子に、知らないところで勝手に嫉妬されて、前触れもなく嫌味言われて。あたしも同じ“オンナ”なんだけど。おじさんの写真の女性のことなんか知らないのに、勝手に悶々としているわけだし……。
「あいつとはあのあとすぐ別れた」
「え……ウソ、ごめん、なんか」
「それこそ中澤が謝ることじゃないだろ。ただおれがむかついたから別れただけだし」
それは、そうかもしれないけど。まあ、たしかにあたしが謝るのはお門違いか。三宅とカノジョ、ふたりの問題に自分から首を突っ込むのはやめよう。あの敵意に満ちた目を思い出して身震いした。
「中澤はあのオッサンのことが好きなのか?」
びっくりした。三宅はアホのくせに鋭いやつだ。本能で生きているのかもしれない。
チガウよと、とっさに言えたらよかった。でも言えなかった。嘘をつくのは得意じゃないし、いま言葉でどれほど取り繕っても、三宅のまっすぐな瞳の前には意味ないと思ったから。