水泳のことはあんまり知らないけど、1日泳がないって、選手にとってはけっこう大きいことなんじゃないかな。

それなのに、自分の練習をほっぽって、こうして駆けつけてくれる。そんな存在がふたりもいる。それって幸せなことだと思う。


「たしかもう少しで大会だよね? そんな大切な時期なのに、サユも、三宅も、ありがと」


あたしがそう言ったあとで、おかーさんもうやうやしくお礼を言い、


「祈は友達に恵まれてるね」


そうくっつけた。


サユは、おかーさんのこと第2の母親だっていつも言ってるし、きっともうあたしたちの家族みたいなもので。友達なんか遥かに超えた存在で。


三宅は、なんだろう?

去年から同じクラスの男子。人懐こい、ちょっとアホな男子。泳ぐ姿がとてもキレイな、水泳部の男子。

たまたま2年連続でクラスが同じだっただけ、教室で少し言葉を交わすだけの特に親しい存在でもないと思っていたけど、そうか、三宅って友達か。数少ない、あたしの友達でいてくれる存在か。


「あのさ。中澤、ちょっと話したいんだけど、いい?」


唐突に三宅が声を出した。断る理由なんかなかったけど、なんとなく、一瞬だけおじさんのほうを見てしまった。

目も合わなかった。おじさんはただ、興味なさそうな、眠たそうな顔をしているだけ。胸のあたりがちりちり痛む感じがした。


「ふたりきりで話したいんだけど、いい?」


その声は真剣そのもので、はっとして三宅のほうに視線を戻す。日焼けした顔の真ん中で、切れ長の目がふたつ、じっとあたしを見つめていた。


「うん……いいよ」


体の真ん中、下腹のあたりが、妙にぞわぞわする。

三宅はあたし以外の3人にことわって、頭を下げると、そのままあたしを連れ出した。目の前の背中はぐんぐん進んでいく。白いカッターシャツがまぶしくて、おじさんのよれよれのシャツを恋しく思った。