案の定というかなんというか、喫煙所で煙草を吸っていたおじさんを呼び戻して、それからしばらく3人で病室にいた。おかーさんは座って仕事をしているのがバレて看護師さんに怒られていた。

なんだかおじさんと顔を合わせて話すのが気恥ずかしい。おかーさんがおかしなことを言ったりするからだ。


くだらないことが大半だったけど、いろんな話をしたし、聞いた。おかーさんは若いころのおじさんの話をたくさん聞かせてくれた。おじさんは心底イヤだって顔をしていた。


「やっぱり会いたかったな、若いころの、かっこよかったらしい和志さんに」


わざとらしい口調で言った。『かっこよかったらしい』のところを強調すると頭を小突かれた。


「ていうか、会ってるよ」

「え?」

「スモック着てたし、おまえが幼稚園児のころだったと思う。たしか会ってる。まあ、ちらっと顔を見たていどだったけど」


なんとも言えないむずがゆさがこみ上がってくる。

だって、そんな記憶はもうとっくに消えちゃっているんだと思ってた。でもおじさんはちゃんと覚えてくれていた。うれしいよ。むずむずする。

あたしも覚えていたかったな。若いころのおじさんがどんなだったのか気になるってものあるけど、なにより、それがおじさんとの本当の出会いだったんだから。それってなににもかえることのできない貴重な瞬間だ。


「ああでも、ちょっと会話もしたな。そういやおまえ、あのときも俺のことオジサンって言いやがったんだ。まだ20代前半の男に対してひでえやつだよ」


だっておじさんはきっと当時もおじさんだったんでしょう。そのころも、おじさんは変わらず、あたしより15年分だけ長く生きていたんでしょう。


「まあ、あのころから佐山くんはちょっと落ち着きすぎてたからね」


おかーさんが笑いながら口を開く。おじさんの横顔を見上げると、「見んな」と言われてしまった。