おかーさんは驚いたような顔であたしを見ていた。それから、すっぴんでもきれいなそれをちょっと切なそうにゆがませて、再びあたしを抱きしめた。
「祈。お父さんがいなくてごめんね。それで嫌な思いとか、不自由とか、いっぱいさせてきたよね。
それでも、祈、私のところに生まれてきてくれてありがとう。そんなふうに言ってくれてありがとう。こんなにまっすぐな、優しい子に育ってくれて、本当にありがとう」
その声は震えていた。もしかしたら泣いているのかもしれない。
あたしも、まぶたの裏がじゅわっと熱くなった。
「私もね、もっと祈にはワガママを言ってほしいと思ってるよ。自分のこと話してほしいって思ってる。どうしようもない気持ち……むかつくとか、悲しいとか、そういうのも全部おかーさんにぶつけてほしいよ」
ずっと閉ざしていた扉を開かれた気分。乱暴にこじ開けられたんじゃなく、とても優しく、そっと。
扉の向こう側にはおかーさんがいた。両手をいっぱいに広げた、大好きなおかーさんが。
こんなどうしようもないあたしのすべてを受け止めてくれるひとがすぐ傍にいるってこと、あたしはすっかり忘れてしまっていた。
「ねえ、お互いにかっこつけるのはもうやめよっか? もっとたくさん喧嘩して、ぶつかりあってもいいよね、祈とおかーさんって」
おかーさんは泣きながら笑っていた。あたしも同じ顔をしているかな。
「うん」
うなずくしかできないけど、それだけでじゅうぶんじゃないかって思う。きっと全部伝わってる。だってあたしにもおかーさんの気持ちが伝わってくるから。
やっぱりおかーさんはあたしのおかーさんで、あたしはおかーさんの娘だよ。血がつながってるって特別なことだ。ふたりきりの家族だからこそ大切にしていきたい。もっと、こわがらないで、ぶつかりあって。