ゴトリ、マグを同時にテーブルに置く。
あたしが小学3年生のころから使っている、おそろいのマグ。あたしが水色でおかーさんがピンク。
シンプルなデザインのそれからゆらゆら立ちのぼる湯気を眺めながら、あたしは小さくため息を吐いた。なんのため息なのかは自分でもわからなかった。
「もっと怒られるかと思った」
ん? と、おかーさんは上目づかいでこっちを見た。
「学校、ズル休みしちゃったし」
「べつに怒らないよ、そんなことで。若いんだからそういう日もあるよ」
あ、嫌だな。だだっ子みたいだ、あたし。
むかむかした。もやもやした。
怒られるのはもちろんやだよ。おかーさんはこう見えて怒るとものすごくこわいしさ。
でも、怒られないのだって、これはこれでなんだか気に入らないって思ってしまうよ。
だって、まるであたしになんか興味ないって言われてるみたいだ。そんなことないってわかっているのに、どうしようもない痛い現実を突きつけられた気分だ。
「おかーさんは、仕事休みたいなって思うこととか、ないの?」
どこかガッカリしてる気持ちを隠すみたいに、あわてて言った。
おかーさんはまじまじとあたしを見つめたあとで、それから軽く笑った。
「ないよ。だって大人だもん」
あたしだって、もう17歳、子どもじゃないし。
「それに、仕事大好きだし、楽しいから」
べつに学校が嫌いなわけじゃないし。楽しくないわけでもないし。