おかーさんは、お父さんのこと、心から好きだったんだね。
そして、いまでもまだ、お父さんに恋をしているんだね。
あたしはちゃんと愛情の真ん中で生まれたんだって思った。大好きなおかーさんが大好きになったひとが、あたしのお父さんだった。
とても悲しい物語だったけど、そう思うと、なんだかそれだけじゃないような気がした。
「あーあ、なつかしいなぁ」
いきなりおかーさんの声のトーンが上がった。
「いやぁ、正直、ほんとに地獄のような毎日だったよ。あのころは経済的にも精神的にもきつくて死ぬかと思ったし、このまま本当に死んでやろうかって何回も思った。でも祈の顔を見たらそんなことはとてもできなかったね。
――祈がね、私の楽園だったんだよ」
ありがとう、と、おかーさんは言った。そしてじっとあたしを見つめた。真剣なまなざしだったから、なんとなく緊張した。
「祈がなによりも大切。仕事よりも、自分よりも、大切だよ」
ああ、涙が出そう。
「うそだよ……。だってさっき、仕事で頭いっぱいだって言った」
「そうだねえ。仕事してないと、祈のことをどうしても養っていけないからね。……そんなのは言い訳にしかならないか」
そのきれいな指がふわりとあたしの頭を撫で、それから優しく抱き寄せてくれた。