「バカじゃないの? 胃潰瘍っていっても、倒れるくらいなんだから相当ひどいんでしょう? どうして座って仕事してるの? バカだよ、おかーさん、いいかげんにしてよっ」


ぽろぽろこぼれる涙を止める方法なんか思いつかなかった。みっともなく泣くのは世界でいちばん嫌なのに、感情が心臓を押し上げてくるようで、苦しくて、どうにもできなかった。


「仕事で頭いっぱいなのはいいけど……もっと、自分の身体を大切にしてよっ」


嘘だよ。仕事で頭いっぱいなこと、『いい』なんて、ほんとはこれっぽっちも思ってない。

ショックだった。仕事で頭いっぱいで連絡するの忘れた、って、言われてすごくショックだった。やっぱりあたしはおかーさんのイチバンにはなりえないんだってこと、突きつけられたような気がした。


「祈、ごめんね、こっちおいで」


おかーさんが泣きそうな顔で言った。


「ごめんね」


ふらふらとベッドに歩み寄ったあたしを細すぎる腕で抱きとめて、おかーさんが言う。それから何度もゴメンって言われた。気付けばおかーさんも泣いていた。あたたかいしずくが腕に降ってきたからわかった。

ああ、うそ……。おかーさんが泣いてる。


「私はダメな母親だね。高校生の娘にそんなこと言われちゃうなんて情けないな」


ダメな母親だなんて、そんなふうに思ったことなんか一度もないよ。世界一の母親だと思っているよ。

でもうまく伝わる気がしなくて、言葉にしても作りモノみたいに聞こえちゃうような気がして、言えなかった。かわりにその胸に抱きつくと、おかーさんは力強く抱きしめ返してくれた。