やがて、カラになった皿にスプーンを投げて、おかーさんはあたしに向かって手のひらを合わせた。そして「ごちそうさま」と、一文字ずつていねいに言った。
そのころにはあたしのお皿もすっかりきれいになっていたよ。とりあえずもうしばらくカレーは食べたくない。
「――学校でさぁ。なんかあった? 祈」
湯気を吐きだしているマグカップをあたしに手渡しながら、おかーさんが静かに言う。
おかーさんは料理は絶望的だけど(あたしもなんだけど)、昔からココアをいれるのだけは大得意。だからきょうも甘いココアをいれてくれた。口直しだってさ。悪かったな、まずい夕食で。
「祈、昔から学校だけはちゃんと行ってたでしょ。ズル休みなんてはじめてじゃない?」
「……まあね」
「なんかあった?」
「べつにそういうんじゃないよ。きょうはなんとなくだるかっただけ」
「ほんとにぃ?」
ほんとだよ。半分はウソだけど。
でも面倒だったからなんにも言わなかった。どこまでが本当でどこからが嘘かなんて、うまいこと説明できる気がしなかったんだ。
首をかしげたおかーさんは、じっとあたしを見つめて、それからゆったりマグカップに口をつけた。つられてあたしもあたたかい茶色を口に含む。
やっぱりおかーさんのいれてくれるココアは別格だ。甘いなあ。一緒にチョコレートが食べたくなる。ちょっと苦いやつ。
「あ。もしかして、好きなひととかできちゃった?」
ニヤッと、おかーさんが口の端を上げた。
「なんでそうなるわけぇ? すぐそういう話したがるよね」
「だって早く祈の彼氏に会いたいんだもん。それで『お義母さん』って呼ばれるのが夢なの」
うへえ。彼氏どころか、ここ1年間くらい、好きなひとすらできないよ。最後に彼氏がいたのはいつだったかな?
そいつのこと、あたし、ちゃんと好きだったかなあ。