◇ ◆ ◇
ぼくと仲井さんの気持ちが入れ替わってしまった。
口にしたところで、言っている意味も、理解できないと思う。
当事者のぼくも、仲井さんもいまだに混乱しているのだから、他の人間に話したところで首をかしげられるに違いない。
それでも、これは事実なんだ。ぼくと仲井さんの気持ちは入れ替わってしまった。
原因となったのは、さかのぼること三日前。
その日、ぼくは二学期早々職員室にいる担任から呼び出しを食らっていた。
理由は単純明快。夏休みをめいっぱい楽しんだツケが回り、提出物である宿題の三分の一を投げ出してしまったからだ。
これでも出校日や、夏休み最後の週に死に物狂いで片付けようとしたんだけど、無理なものは無理だった。
特に現代社会からの自由研究。
まさか高校になってからも、自由研究の提出を要求されるとは思わなかったよ。
なんで、高校に入っても勉強三昧なんだろうな?
去年、受験生だったぼくとしては、高校生になったら中学生ではできない遠出をしたり、海に行ったり、夏祭りに行ったり、と遊びまくると目標を立てていたわけで。
サボった罪は軽いと思うんだけどな。去年は勉強を死ぬほどがんばったんだから。
話は戻り、職員室を出たぼくは不貞腐れていた。
悪いのは自分だって分かっていたし、担任の言い分も理解できる。成績に響く懸念だって持っていた。
けど、そこまで怒らなくていいじゃないか。ちょっと宿題をサボったくらいで。三分の二は片付けたんだから。
「くそ、最悪だ。二学期早々放課後に呼び出されるなんて。恨むぞ岩倉」
一時間は軽く説教をしてきた担任に、ぶつぶつと恨み節を唱えながら昇降口に向かう。
どうしてもムシャクシャが止まらないから、ぼくは友達に借していた雑誌を通学鞄から引っ張り出す。それは映画専門雑誌だった。
ぼくは映画を観ることが好きだ。
映画は今の自分が忘れられるほど、魅力的な世界を魅せてくれるから。
万人受けする人気の映画も良いし、B級映画と呼ばれるコアな映画も好きだ。特に洋画が大好きだ。
もちろん邦画もいいけど、壮大な世界を魅せてくれるのはなんて言っても洋画だと思うんだ。