「お父さんに電話してくるからね」
病室を出る時、母はぼんやりとベッドの端に座っていた。
その小さなやせ細った背中が悲しかった。
こんなに痩せたのに抗がん剤に耐えられるのかな?
とりあえず父と兄には連絡しなくてはいけない。
「お父さん、急いで病院きてほしいの」
『何かあったのか?』
涙が出そうになったけどグッと堪えて冷静な声で言った。
「転移してた」
『え?』
「先生からお父さんにもう一度説明してもらう、だから早く来て」
『わかったすぐ行くから』
兄にも同じ電話をしてそれは来なくてもいいと言った。
兄もかなり動揺していた。
病室に戻ってまだぼんやりしている母の隣に座った。
そしてさっきと同じく手を握ると母からも力強く握り返してきた。