あたしの男性遍歴を母は疎ましく思っていた事がある。

8年近く付き合った彼氏は悪い印象はなかったけど、「未来が見えないならやめなさい。その子はハルと結婚する気はないから」と言っていた。

一度、旭川方面へ単身赴任している父がいる週末にその彼氏を呼んだ事がある。


『結婚する気があるなら家へ来るように』


そう言われてそのまま伝えると来ないだろうと予想してたのに「来る」と返事をした。

彼氏は大人しい人で無口だった。母に似ている感じかもしれない。

家へやってきた彼氏は手土産一つ持ってこないで、本当に来ただけだった。

自分の名前も名乗らずあたしが紹介する事になった。


男友達はよく家へ遊びに来てたけど「彼氏」という存在を家へ連れてきた事がなかったが、手土産もなく自己紹介も出来ない彼氏に内心舌打ちをしたくなった。

あたしの両親は「常識」をすごく大事にする人だから。

その時、両親は結婚の話が出ると身構えていたのに、彼氏はご飯を食べ、聞かれた質問に答えただけで帰った。

まだ20代の半ばだったし彼氏も彼女の家に呼ばれた経験がないからひどく緊張していて手土産も自己紹介も何を話せばいいのかもすっ飛んでしまったらしい。


それから母は「やめた方がいい」と言い始めた。

結婚の期待はゼロだと言う。

長く付き合ってたから余計に言っていた。

あたしに早く結婚してほしかったんだと思う。

その頃のあたしはもうすっかり落ち着いていて、週末に彼氏の所へ行く以外は友達とたまに飲みに行くくらいでほとんど仕事から真っ直ぐ家に帰っていた。


あたしの20台前半が幸せな感じではなかった事を薄々感じていたからだと思う。


「自分が普通に幸せになれる道を歩きなさい」


とよく言っていた。


高校時代の戦争の様な大喧嘩もおさまり、母の前でタバコを吸ってもお酒を飲んでも何も言わなくなって、あたしが車を買ってからはよく2人で遠出して温泉に行ったりして親子仲は順調になった。


でも、あたしがその彼氏と別れてしばらくしてから新しい恋人が出来たと同時にまた第二次親子戦争が始まる事になる。