まばらに残った髪を見て「帽子被ってみたら?」と言ってみた。
「そうだね。持ってきてくれる?」
母に言われて布製の帽子を持って来て被せてあげた。
髪の毛がわからないようにスッポリと被せて、
「こうやって被ると大丈夫じゃない?」と鏡を見せた。
鏡で色んな角度を見ながら頷いた母はあたしに言った。
「後ろがわからないから、ハル、またデジカメで髪の毛撮って」
帽子を脱いだ母の頭の写真を撮り見せるとジーっと見ている。
「後ろばかり抜けてるんだね」
「わかんない。あたしが後ろを抜きまくったからかも」
「そのうちツルツルになっちゃうね」
「でも、抗がん剤が終われば生えてくるからね。少しの辛抱だよ」
「元気な髪が生えてくるんじゃないか?」
ようやく父が喋った。笑顔だった。
「そっか・・・、白髪染めしすぎたからね。今度は痛んでないもんね」
「そうそう。ちょっと尼さんな気分でいればいいじゃん。ツルツルなんて誰でも出来る体験じゃないんだし」とあたしも笑顔で言った。