3人でテレビを見ていて母はソファに座って愛犬が母にベッタリとくっついているいつもの日常。
「あ」という母の声にあたしと父は母を見た。
困った笑顔の母の手には『ゴッソリ』という表現がピッタリな程の髪の毛の固まりがあった。
しばらく誰も何も言わなかったけど、あたしは母の隣に座り
「面白いくらいに抜けるんだね、どうせまた生えてくるし今度生えてくる髪は痛んでないからいいじゃん」
と言いながら母の髪をどんどん抜いた。
本当は悲しかった。
母が一番辛いだろうけど、あたしも泣きたかった。
ティッシュの上に山の様に髪があるのを見たくなかたけど、誰かが笑ってあげないと母が苦しいから。
「抜いて、抜いて」
母も笑いながらあたしに言って2人で髪を抜きまくった。
髪に触れるだけで手の平いっぱい抜ける髪をティッシュに置いて、あたしは「面白い」と笑い続けた。
でも、父は目を逸らしていた。
やっぱり自分の奥さんの髪が抜けるのは辛いと思う。
母はガン患者だと見せつけられている様な気がした。
誰が辛いって母が一番辛いに決まっている。だから笑ってあげないといけないと思った。