母の初めての抗がん剤が終わった日、あたしはやっぱり心配で実家へ戻った。


「どう?」


「うーん、少し気持ち悪いかな?それ以外は特に」


と言いながらご飯支度をしていた。

台所に立ちながら母はあたしに言った。


「ハル、お母さんもうすぐ髪の毛抜けちゃうでしょ?だから髪を短く切ろうと思うの。その前にデジカメでお母さんの写真撮ってほしいだけど」


「え?」タバコをくわえばがらあたしは返事をした。


兄に誕生日に買ってもらったデジカメを持って、渡された。

このデジカメに母は大喜びをして庭の木や花や愛犬を撮っていた。


鏡で髪を少し直すとソファに座って「いいよ」と言われた。


母は写真が苦手な人であまり上手に笑えない。


「あのさ、少し笑ったら?」


「いいの、いいの。髪の毛がある自分を撮るだけだから」


固い表情でそれでも口角だけは何とか上げた母の写真を数枚撮った。


「あとね・・・」


「うん。何?何してほしいの?」


「帽子買いに行くの付き合って。ダサイのは被りたくたいのよ」


「・・・わかったよ。土曜か日曜に乗せてってあげるから色々見てこよう」



抗がん剤ってどのくらいしたら髪が抜けるのだろう?

本当にテレビみたいにごっそり抜けるのだろうか?


「ありがとう」母は笑顔で言ってまた夕食作りを再開した。