バッグも着物の指輪もいらない。


お母さんの「形見」なんていらないからお母さんに生きててほしい。


例え病院から出れなくても時々ボケた感じの言葉を発しても、


何でもいいからお母さん生きてて・・・。




「ハル、起きろ!ハル」


身体を揺すられてビックリして目が覚める。


「お母さんは?」


真っ先に出たのがその言葉だった。


「やっと寝たよ。さすがに2日徹夜は無理だろう」


母を見るとコテっと赤ちゃんの様な顔で寝ていた。


「本当に寝てるの?意識なくなったとかじゃない?」


「看護士さんがきて、『寝てますね』って言ったから寝てるみたいだぞ」


「そうなんだ・・・」


「お父さん、一度家に帰るから。ココロ心配だから。何かあったら携帯に電話くれよ」


「わかった」あたしは頷いて眠っているらしい母の手を握った。時刻は朝の4時だった。