何かがあると兄が何度も彼氏との家に迎えに来た。
血がダラダラと流れる左手首を包帯で固定して泣きながらあたしは車に乗り込む。
その車の中に母がいた事も数回あった。
母は泣きながら「あの男だけは許せない」と言っていた。
そして家に帰り、あたしのリストカットした手首を手当しながらいつも言った。
「ハル、人はね、そう簡単には死なない。ましてや自分から死のうとする人間を簡単には殺さない。自殺しようとする人間は大馬鹿者だから神様はそれを許さないんだよ」
死にたい、もう嫌だと思ってるのに死ねない・・・。
やっぱり「生」への執着があるから死ねないんだね。
あたしの左手首には今も浮き上がった傷跡が数本あって、手首が無理ならと思って肘の内側に包丁で大きな「バツ(×)」に切った傷もある。
×にしたのは自分がダメな人間でいらないと思ったから。
おかしくなっていたあたしは笑いながら、怒って出て行った彼氏との家で
「あたしなんかいらないじゃん」
と包丁で大きな×の傷をつけた。
ダラダラと流れる血を見ながらケタケタ笑っていた。泣きながら。
首も切ってみたけど、薄皮が切れただけで血はうっすらと流れただけだった。
あたしはまだ死にたくなかったんだと今ならわかる。
あの時のあたしは確実に狂っていたから。
自ら死を覚悟する人間はもっと確実な方法を取るから。
あたしは結局弱くて逃げる先が自殺未遂だっただけだ。