歯磨きをしている途中で寝る事もよくあった。


その度に「信子さん、歯磨き中ですよ」と声を掛ける。


そうすると思い出した様にブラシで歯をゴシゴシとこすり始める。



弱っているのに病室に入るあたし達は必ず笑っていた。


父は「どうだい?」と声をかけ、


兄は「おー、生きてる?」と冗談を言い、


あたしは「ハロー」とぶざけて病室に入る。


そんなあたし達を母は笑って見る。



「ハル、点滴しか治療してないと思わない?」


と聞かれて絶句しそうになった事がある。


でもすぐにちょっとおどけた感じで


「体力ないからじゃないかな?体力戻ってご飯食べれるようになったら点滴も変わるかもしれないね」


と言った。


「なんだ、そうかぁ」


母はなるほどと言う顔をした。あたしも「そういう事ですね」と笑いかけるしかない。