「中1の夏。俺達は補導されかけた。何故なら路面に捨ててあると勘違いしたチャリをパクろうとしたからだ」
あ、それは俺と遠藤だけの秘密の思い出。
「それから、坂本のいとこの中に別嬪姉ちゃんがいた。歳は俺達の十上、中学の時はもう社会人だったよな。あの人。綺麗だった」
一目惚れしそうになったとウィンクする遠藤に、俺はちょっとだけ表情を緩めた。それも俺と遠藤だけの思い出だ。
「あと、忘れられない思い出は二人でお前の兄貴の部屋に忍び込んでエロ本を読んだことだ。見つかった時は殺されるかと思ったな」
「あんた達。最悪」キッチンに立つ秋本が笑声を漏らしながら悪態をついてくる。
シシシッ、子供っぽく笑う遠藤にもうこれ以上の疑いはない。
どんなに変わっていようと、遠藤は俺の知る、あの遠藤なのだから。
少しだけ緊張の糸が弛む。
安堵の息をつく俺に、「信じたか?」と聞かれ、首を縦に振った。
そうかそうか、満足げな表情を作る遠藤に更なる質問を重ねる。
俺のことは怖くないの? どこまで秋本から聞いているの? と。
曰く、遠藤は俺を秋本の部屋に運んだ後、彼女と合流。一旦秋本に俺を任せ、仕事に戻ったそうだ。
秋本も仕事を抜けて俺がもう大丈夫だと判断するまで傍に居続けてくれたみたい。
各々仕事を終えると事を知るために軽く茶会をしたんだって。
ある程度の事を知ってくれているということは、俺が1996年から2011年に飛んできたことも知っているということ。
なのに遠藤、あんま驚いた素振りは見せない。
寧ろ信じてくれる様子。
肝が強いのかと思ったけど、「驚きを越しちまって」どう反応すればいいか分からん、と零していた。
「だってまず人間が透けるところを見ちまったんだ。信じられないけど信じるしかないしなぁ」
なるほど、納得いく答えをどうも。
「懐かしいよ、お前を見ていると」
遠藤は目尻を下げた。
一方の俺は十日ぶりの再会だから懐かしいもなにもない。
お前に戸惑ってばっかだよ。
成長したな。背ぇ高くなったな。顔つき、男前になったな。空気、変わったな。
花火のように言葉が湧き出ては弾け消える。
「お兄さんもアラサーなんだよな?」
「やめろって。その、お兄さんっての。ガチで自分が老けた気分だぜ。それにまだ29だ。今年で30だけど」
そうか、お前もアラサーか。
俺は秋本を一瞥。ダブルアラサーか。
ギッと彼女に睨まれたから、慌てて視線を戻す。冗談だって、ジョーダン。
でも二人が30だなんて変な気分だ。お前等が30なんて不思議な気分。