そよぐ生ぬるい風のぬくもりは拍数を置いて感じる。
 

眩暈がした。

唐突過ぎる出来事に貧血を起こしたのかもしれない。


きっと非常識現象に脳みその処理が追いつかないんだ。

幾ら平和に恐れていたとはいえ、これは急過ぎるだろ。


誰だって貧血を起こすぞ。


不思議現象は俺にちっとも優しくないな。ぐらっと足元がよろめいた。
  

「せめて」


神社で消えたい。

こんな湿っぽい路地裏で誰にも気付かれず消えるよりかは、消えちまうよりかは、神社のご神木に看取られて消えたい。


ひとりで消えるのは怖い。

 

路地裏を進む足が縺れ、大袈裟に転倒してしまった。帽子が頭から滑り落ちる。


「ダッセ」


苦笑を零し、引き摺るように体を起し、壁に凭れる。

明滅する体、次第次第に意識が白に染まっていくのは体と連動しているからだろうか?

膝を抱え瞼を閉じた。もう神社に行く気力もねぇや。



「坂本―――っ!」



と。



白濁の海に沈みそうだった意識が浮上する。

重たい瞼を持ち上げ、のろのろと顔を上げれば、片膝をついて俺の両肩に手を掛けてくるリーマンの姿が。


「しんどい」

 
久々に全力で走ったぞ。

額に汗を滲ませるリーマンのこと遠藤は、俺の姿を見るなり、「なんだよこれ」なんで体が透けて……、目を見開いている。


力なく笑ってしまった。
顔をよく見れば見るほど、俺の知る遠藤の面影が垣間見える。


そっと手を伸ばすと、勢いづいた大きな手に包まれた。

相手は大人なんだな、と冷静に物事を把握する俺がいた。


「坂本っ……、お前、俺の知る坂本なんだろ?」

「遠藤、お前。背、高くなったな」


こんな事態に相手の身形を話題に出す俺は、軽く現実逃避をしているのかもしれない。

あの頃は俺より5cm高いだけだったのに、嗚呼、本当にお前は背が高くなった、羨ましくて憎たらしさを覚えるほどだと微苦笑。


「その身長なら、ヘディングも余裕じゃん。お前、ヘディング得意だったし」

「やっぱりっ、坂本だ。お前は俺の知るっ、坂本健だっ。
お前、今まで何処で何してやがったんだよ! なんだよそのナリっ、なんで中坊のままなんだよ! どうして消えそうなんだよ」