「ふーん。消費税が10%に引き上げられる可能性大、か。マジか。5%でも辛いのに。最高で25%まで引き上げられる可能性も…って、簡単に外食できなくなるじゃん」
 

機械に向かって独り言を零すのは、テレビの魔力なのかもしれない。

「漫画も安易に買えなくなるよな」

学生には優しくないニュースだと吐息をつき、カフェオレで喉を潤す。


まあ今の俺は学生であり学生じゃない、大人であり大人じゃないんだけどさ。


………。

 
ふーっと溜息をつき、俺はテーブルに頬杖ついた。

何事もなく10日も過ぎてるけど、何事もないのもなんだかなぁ。

俺、生活に慣れ始めてるぞ。
これでいいのかよ。

ヨクナイだろ。
俺、一応、1996年の人間なのに。


秋本との暮らしが苦とか、そういうことを言いたいわけじゃないけど、10日も過ぎると不安が蘇ってくるんだ。

俺、ずっとこのままなのかな。

それとも何かアクションを起こさないといけないのかな。


もしそうだったら何のアクションを起こさないといけないのかな。


あれやこれや、悩みが泉のように湧き出てくる。


ずっとこのままはこのままで大問題だしな。

今のままじゃ学校にも行けない、かといって就職もできない、身分証明できるものもないから病院に行くことだって一苦労する。

学校に行けないのも暇だし、家に閉じこもっているばっかりもツマンナイし。


それに、俺は未だに分からないでいるんだ。


腰を上げて洗面所に向かった俺は鏡面を覗き込む。

やっぱり鏡面には俺の姿はない。
開け放たれた浴室が映っているだけで、他には何も映し出していない。坂本健という男はどこにも見当たらない。


「幽霊、なのかな」

 
けど幽霊が人と会話できたり、物食ったり、入浴できたりするか?

現に俺の姿は秋本以外にも見えているみたいだし。

昨日もコンビニで買い物に行ったから、俺の実体はあるんだと思う。実体は。


じゃあなんで鏡に映らないんだろう?

ぽりぽりと鼻の頭を掻いて俺は腕を組む。謎は謎を呼びやがる。まったくもって理解不能、分析不能、意味不明だ。