「あ。此処を出たらスーパーに行かないとね。しょうが焼きの材料買わなきゃ。
坂本も手伝いなさいよ。あんたはお客じゃないんだから。料理の腕は期待してないから大丈夫よ。
だけど野菜を切ったり、皿を並べるたりとかはできるでしょ」
まだなにも返事をしてないのに、秋本は勝手に会話を進めていく。
歩調も軽快、これからの生活に心を躍らせているような足取りだ。
軽く鼻の頭を掻いて俺は駆け足。肩を並べて、しっかり手を結びなおす。
秋本の手、女性らしい大きな手だな。
弾力のある肌してるし。
成長した女性の手ってこんなにも柔らかい、綺麗な手をしているのか。
なんか悔しいな、こいつよりも手が小さいなんて。背が小さいなんて。今は年下だなんて。
同じ年、時間、場所で生きていた筈なのに、一件で俺達は15年の空白と溝ができちまった。
ザァアア―…。
前触れもなしに木々がさざめいた。否、ご神木が俺に向かってさざめいた。
足を止めて俺は首を捻る。
夕の日を燦々と浴びながら葉を擦り合わせているご神木のその姿は、まるで俺等を見送ってくれているよう。
「坂本?」
俺が足を止めたことにより、彼女の足も止まったようだ。そうだよな、俺と彼女、手ぇ繋いでるんだし。
軽くご神木に微笑し、「なんでもない」俺は秋本に行こうと声を掛ける。不思議そうに秋本は俺を見ていたけど、大して気にする素振りは見せなかった。
「親子に間違われたらどうしよう」
不意に俺はこの行為に対して冗談を呟く。
「スーパーまでこんなことしないわよ」
あんたが大人しくしてたらの話だけどね、てか、誰が親で、誰が子よ。アラサーを気にしている秋本が呻いた。
くすっと笑声を漏らす俺は、やっと心の底から笑うことができた。