ふっと頭にキャップ帽が被される。状況を把握する前に抱き込まれた。

驚いて思わず瞬き。
ぱちぱち、瞬きする度に雫が頬を伝った。


「ダイジョーブ」


女性特有の声、柔らかなソプラノが俺の鼓膜を打つ。


「こうして傍にいるから、あんたはひとりじゃないよ」


涙の量が増えたのは何故だろう。
 

「坂本はひとりじゃない」


何度も繰り返してくれる秋本は、俺の頭を強く抱き締めて、その言葉、態度で教えてくれる。ひとりじゃない、と。
 

お前さ、なんで此処まで俺に優しくしてくれるんだよ。

中学のお前はあんなに疎ましいって言ってたくせに、ほんっと分かんねー奴だな。

ほんっと、わけわかんねぇよ。


こんなことされたら、また好きになっちまうだろ(本当は現在進行形で秋本のこと、好きだけどさ)。


「ねえ坂本。あんた、なんで此処で寝てたの?」

 
俺を落ち着かせるように、でもって自分の疑問を解消するように質問を重ねる彼女。

こんなところで寝ていたなんて風邪でもひきかねないのに、ご尤もなことを仰る教師は何かあったのかと生徒の気持ちに目を向ける。

さすがは教師だよな。鋭い。

観念して俺はポツリと零した。


「居場所を探していた」と。

 
「さっきも言ったけどさ、俺は居場所を探してたんだ。
昨日…、お前にとっては15年前になるだろうけど、その日、色んな嫌な事が重なっちまって。家じゃあ両親が喧嘩してるし、外じゃあれやこれやらで自分の存在意義を見失いそうになるし。
なんかもう自暴自棄になっちまってさ。自分の居場所を探して、此処に流れ着いた」
 

自分ちっぽけだなぁって、自己嫌悪しちまってたんだ。

ありの儘の俺を受け入れてくれる場所を探していた。


俺は教師にそう吐いた。

白状してしまうと案外スッキリするもんだ。

まさか外であれやらこれやらの“これ”に秋本の失恋が入ってるとは、口が裂けても言えなかったけど。