「あ。坂本」ちょっと待って、秋本の声を無視して車のドアを閉めると駆け足で石段を駆け上がる。

買ってもらったばっかのキャップ帽が脱げたけど、気にならなかった。
 
 
不気味な程静まり返っている神社の敷地に入った俺は、迷うことなくご神木に向かった。

そう、俺が昼寝をしていたあの場所だ。

相変わらず閑寂な場所で生きているご神木は、昨日見たよりも成長している気がした。


そりゃそうか、15年も経ってるんだから。


唾を飲み込んで俺はご神木に歩むと、そっと木肌に触れた。ぬくもりが伝わってくる。

まるで俺を慰めるかのようなぬくもり、この木は確かな熱を持っている。
 

「お前の仕業か?」


俺が15年後の世界に飛ばされたのは、お前のせいか?
 
そんなわけないのに、物理的に、常識的にそんなわけないのに、俺はご神木に問いかける。

だってお前以外考えられないんだ、こんなことをするの。
じゃないと俺、他にどうやって此処に来たんだよ。


なあ、なんで俺、此処にいるんだよ。
 

昨日から募りに積もっていた不安が一気に溢れ出る。
 

軽く浴室で気持ちを爆発させたのに、また不安が…、俺はズルズルとご神木の根本に座り込んで、額を相手の体に預ける。


此処に俺を飛ばしたの、お前なんだろ。

なんで15年後の世界に飛ばしたんだよ。


それとも俺、木の下で寝ちまってそのまま永眠しちゃったのか。


だから鏡に姿が映らないのか。

死んだのか、生きてるのか、それだけでもいいから教えてくれよ。


俺は今、どうなっちゃってるんだ。



「こんなことなら」
 


いつまでも此処で寝ておきたかったなぁ、目なんて覚めたくなかったよ。

視界が歪む。

泣き笑いする俺は、「もっかい此処で寝れば」今度は目なんて覚めずに済むのかな、小声で相手に問い掛ける。

返事はなかった。
無責任だよな、俺をこんな状況に追い込んで答えてくれないなんて。