俺は手の甲で唇をゴシゴシ擦り、地団太を踏んだ。
「なあにが間接キスを奪った、だっ! 秋本のバーカ!」
ふふっと笑声を漏らす秋本は長い髪を靡かせながら、半身をこっちに向けて目尻を下げた。
垂れ下がる絹のような髪を耳に掛ける動作はドキリ、としてしまう。
「これで私達、親子には見えないでしょ」
くるっと視線を戻して軽快な足取りで歩き出す秋本に、俺は頬を紅潮させる。
なんだよ、あいつ。
親子って言ったこと根に持ってたのかよ。
じゃあ、姉弟にするって。
いや、姉弟でもこんなやり取りしねぇだろ。…じゃあ、別の関係?
秋本がよく分からん。
お前、俺のことをなんだって思ってるんだよ。
小さく唸り声を上げた後、俺は鼻歌を歌っている秋本の背を追い駆けたのだった。