鉛のように重たい心を引き摺って、浴室を出た俺は着替えてリビングに戻ると秋本が化粧道具を片付けていた。
プラスチックの箱に化粧道具を詰めていく彼女は、「あー!」俺の身形を見るや否や声を上げて作業を中断。
ズンズンと俺の方に歩んで、頭からかぶっているタオルでわっしゃわしゃと水気を取り始めた。
痛いほどの手の強さに俺は悲鳴を上げたくなったけど、その前に秋本の方が怒声を上げたからタイミングを逃す。
「床が濡れるでしょ! ちゃんと水気を取ってから、こっちに来なさいよ」
短髪のくせに水気を取る手間もめんどくさいわけ?
弾丸のように文句をかます秋本は、クッションの上に俺を無理やり座らせると、もう一度髪をわっしゃわしゃ。ごっしごし。
ドライヤーを取り出して、コンセントを嵌めると電源を点けて温風を俺に当ててきた。
本当に面倒見の良い奴だと思う。
ブォオオン、唸り声を上げながら温風を繰り出すドライヤーの音はやけに静かだ。
俺の家のドライヤーとは全然違う。
家にあるドライヤーは、喧(かまびす)しく音を奏でるんだ。
これも科学の進歩だろうか?
それとも我が家のドライヤーが単に古いから?
成されるがままになっていると、「坂本はさ」ダンマリの俺に秋本が話し掛けてきた。
「ご飯、何が好き? 今日の夕飯、なるべくあんたの好きな物を作ってあげるわ」
秋本なりの気遣いなんだって分かった。
落ち込んでいる俺の空気を読んだのかもしれない。
もしかしたら表情で、浴室で俺が何をしていたのか、薄々気付いているのかも。敢えて触れないところが彼女の優しさなんだろう。
なんか儲けものだな、片恋に世話を焼いてもらえるどころか、手料理が食えるなんて。
「しょうが焼き」俺は大好物の品を一品挙げた。
ご飯が何杯も進むほど、大好きなんだと彼女に訴えれば、「そう」男の子らしいはね、秋本が笑声を零す。
「やっぱり男の子は肉が好きなのか」
そうかそうか、じゃあ今晩はしょうが焼きにするか、献立を口にしていく彼女に言い忘れたがあったことに気付いて、俺は首を捻る。んで頬を崩した。