だったらなんで鏡面に俺が映っていないんだ。

俺は此処で今、呼吸をしているのに。


血の気が失せた。


ホラー・オカルトってのは苦手な類に入るんだけど、まさか自分が過中に立たせるなんて。

氷のような冷たいものが背中に走る。

何度も鏡を覗き込む。
鏡の表面にそっと触れる。
鏡面の世界にいるであろう俺を探す。


結果は同じだった。


昨日に引き続き、世界は俺を混乱に陥れようとするらしい。
 

愕然と、茫然と鏡を見つめていた俺は軽く粟立つ肌を擦って無理やり鏡から目を逸らす。

学ラン、パンツ、シャツ、全部脱いで浴室に飛び込んだ。

蛇口を捻ってシャワーのお湯を出すと、それを頭からかぶる。

何も見なかったことにしよう。


なにもみなかったことに。


「っ…」無数の温かなお湯の粒が肌を打つ。

並行して頬に伝うような気がする、温かな雫。


溶け合って一つの液体と化す。


嗚呼、ちょっとばかし感情がパンクしちまったみたいだ。

 

ちょっとだけ、さ。
 


「生きてるのか、死んでるのか、それさえも分からないなんて」



本当に幽霊になっちまった気分。

だって幽霊も自分が死んでること、気付かないケースが多いんだろう? 俺も実は気付いていないのかも。

ばちゃばちゃと床に落ちる水音をBGMに、今しばらく俺はシャワーのぬくもりに浸っていた。

軽く肩を上下に動かしながら。