どうやら昨日、俺は疲れてリビングで眠ってしまったらしい。 
 

気を利かせて秋本が俺を寝室まで運んだらしいんだけど(靴下を脱がせた犯人は秋本だったのか)、なんだか申し訳ない気分になった。

何から何まで手を焼かせたような気がしてならない。

彼女は気にしてない素振りだったけど、「着替えがないのよねぇ」別件で眉根を寄せていた。

シャツやズボンは古着で良ければ貸せるけど、下着となるとうんぬんかんぬん。

確かに俺もそれはご免被りたい。

ナニが悲しくて女性物の下着を15年後の世界で経験しなければいけないのか!
 

「まあ、今日買い物に行く予定だし、下着と着替えも買いましょ。
二日も三日も同じものを着られちゃ、私がドン引くし。毎日洗うにしても、その間どうするんだって話しだし」
 

買い物。
 
まだ完全に目覚めていない頭で、俺は彼女に尋ねる。買い物に行くのか、と。
 

「だってこのままじゃ居心地悪いでしょ」


「例えば歯ブラシを共有できる?」秋本はそれこそご免被りたいと大袈裟に肩を竦めた。

一日分でもいいから、何か俺の物を買っておかないと不便だと言ってくれたけど…、それって秋本に買わせるってことだよな。

俺、金持ってないし。


それに俺、この世界にいつまでいられるかも分からない(というか、状況を分かってない)。無駄遣いさせるような気もする。
 

曇る俺の顔を一瞥した秋本は、「ねえ坂本」元気付けるように微笑んできた。



「余計な心配はしないで。私がしたくてしてるだけだし。
それに混乱してもしょうがないけど、落ち込んで気鬱になってちゃ、本当に鬱になるわ。少し、気晴らしをしましょう? あんたの表情、昨日から曇ってばっかりよ」


晴れるわけないじゃないか。
こんな状況下になってるんだから。

この状況を素直に喜べる奴がいるなら、是非とも俺の前に連れて来て欲しい。

喜んで交替してやるから。