湯気立っているうどんを見つめていた俺は、ようやく食べる手を再開。

ズルッとうどんを啜って、気を落ち着ける作業に努める。

便乗して秋本も食べることに集中した。
テレビの点いていない室内にはうどんを啜る音だけが満たす。
 

スープまで飲み干し、綺麗に夕飯を平らげると、俺は脇に置いていた通学鞄を持って立ち上がった。


「ごちそうさま」


すっごく美味しかった、頬を崩して軽く会釈。

その態度に瞠目する秋本は重ねる食器を持って、「何処に行くの?」と俺を見下ろしてくる。

何処に行くもどうしたのもこうしたのも、これ以上、長居するわけにはいかないじゃないか。

世話になるだけ申し訳ない気持ちになるし。


「腹が膨れて気も落ち着いたし、俺、行くよ。なんで此処にいるのか、原因を突き止めたいから」
 
「行くって何処に? あんた、行く場所あるの? 家には帰れないでしょ」


「神社に行くよ」


あそこから何かがおかしくなったんだし、そこで今日は野宿しようと思う。

彼女に、そう告げてお邪魔しましたと挨拶、玄関に向かった。
正しくは向かおうとした。

だけど俺の足は止まってしまう。


秋本に手首を掴まれた。


痛いほど握り締めてくる秋本に視線を流せば、「やせ我慢しないでよ」今日は此処に泊まればいいじゃない、と真顔で訴えてくる。


そんなこと言われても、俺、本当にこれ以上、秋本に迷惑を掛けられない。

仮にも俺はお前のこと、好きだったんだ。
尚更迷惑、掛けたくないよ。
 

「夕飯ご馳走になった上に、泊まるなんて…、迷惑なこと極まりないじゃんか。大丈夫だって、俺、男だし…、一夜くらい野宿しても」

「あんた、失踪事件を起こしてるのよ。警察にでも顔が知られてみなさい。日本中が大騒ぎになるわ」


「でもお前、俺のこと嫌いだったろ?」