……調子狂うぜ、毎日一緒に生活していたのはアラサーの秋本だったから、つい癖で。


総計すると多分、15の秋本よりも過ごす時間は長かったと思う。

あいつが帰って来たら、必ず一緒に飯食ってたしな。

愚痴を聞いて、自棄酒するあいつを宥めて、二日酔いになったら介抱してやって。
 


楽しかったな、あの時間。



ちょっとだけ恋しくなるよ。

同居していたあの頃が…、自分の選択に後悔しているわけじゃないけどさ。

微苦笑を零して思い出のページを捲っていると、

「あのさ」

また秋本が声を掛けてきた。どうしたと彼女に返す。
たっぷり間を置いて、秋本は小声で聞いてきた。

「教室には来ないの」と。
 

まさか彼女にそんなことを聞かれるなんて―…。
 

嘘、俺は2011年の秋本から気持ちを教えてもらっているから、なんとなくどうしてそんなことを聞くのか察しちまう。

目元を和らげて、「そのうち行くよ」生返事をする。


「今はまだ環境が落ち着いてないからさ。
もう少し落ち着いてから、教室に行くつもりだよ。皆と一緒に授業を受けたいしな。
事件を起こしてさ、よく憶えていないけど、これだけはハッキリ言える。皆と過ごせるってすっごく大事なことなんだってさ。大事だよ、ほんと。時間っていうのは」


微笑を送ると俺は再びノートに視線を戻した。

ダンマリになる秋本だったけど、不意に距離を詰めて俺の隣に座ってくる。腕枕をしつつ、俺の勉強内容を覗き込んで何処をしているのか把握。


「遠藤のノート汚いわね」


毒づいて、今度自分のノートを見せてやるとぶっきら棒に言ってくれた。
 
「サンキュ」彼女に綻ぶと、決まり悪そうに頷いてくる。


それから暫く、秋本は俺の勉強作業を眺めるだけで一抹も話し掛けてこなかった。


それでも距離を詰めて傍にいてくれようとする彼女に、俺は微笑ましい気持ちを抱く。


じかに伝わってくる優しさが心をあったかくした。