自分なんてちっぽけだと思って、不貞腐れていた自分に喝を入れたい。

お前は気付いていないだけで、こんなにも家族から愛されていたんだと。


仮に離婚が成立してしまっても、きっと両親は変わらず俺や兄貴を愛してくれたに違いない。

いや俺が怯えていただけで、離婚のことに正面から立ち向かえば何かが変わっていたのかもしれない。


俺は何もせず、泣き言だけ言って2011年(此処)に逃げてきちまった。臆病者だ。
 

グズッと鼻を啜って目元を擦っていると、ギシギシッと足音が聞こえてきた。
 
やばい、誰か来る。
元通りにしないと怪しまれるぞ。

まずはアルバムを仕舞って、椅子を元に戻して鞄は肩に掛けて。ああ、それから電気は消して。

バタバタと行動している間に襖が開かれた。

椅子を戻すところまではクリアしたけど、電気までは消せなかった。


だから中に入って来た人物が不思議そうな面持ちで部屋を見渡している。

入って来たのは母さんだった。
 

「変ね」電気が点いてるなんて、疑念を口にする母さんだけど、程なくしてそれさえ忘れたように机に向かう。


そのまま椅子を引いて写真の俺と対面。

泣き笑いする母さんは、「聡。帰って来ないって」と写真の俺に語り掛けた。


写真は反応を示さない。
分かっていて母さんは“俺”に話し掛けている。


「今度こそ帰って来てくれると思ったんだけどね。
……聡も此処には帰ってき辛いのよね。此処は健の思い出が沢山詰まっているから」