「あ。白紙になった」


残り僅かというところでページが白紙になる。

最後写真が中学校の写真だったから、きっと此処から先は俺が失踪しちまった後の年だ。

「あ」俺はアルバムのメモ欄の書き込みに気付いて、そこを指でなぞる。

達筆なボールペン文字、だけど滲んだ文字で『息子の健へ』とメッセージが綴られていた。これは母さんの筆記だ。


  
健。


貴方は今、元気ですか?
ヤンチャはしていませんか?

何処にいますか?

疲れたらいつでも帰ってきて下さい。


貴方の帰りを待ってます。

 

「―――…」


 
アルバムを閉じて、俺は必死に喉の奥の痙攣を抑えた。抑えようと努めた。

だけど努力すればするほど、まるで喉が渇くような引き攣った感覚に陥る。


嗚呼、なんだよ畜生、俺って超絶に馬鹿。

両親が離婚危機を迎えようと、兄貴がデキが良かろうと、俺がデキが悪かろうと、いざとなったらこんなにも待ってくれてるじゃんか…、俺の家族。


両親の心に俺はいない。

どっか不貞腐れた気持ちを抱いていたけど、俺…、此処にちゃんといた。

兄貴だけじゃない、俺もこの家にちゃんといたじゃん。


窮屈だと思っていた家だけど、俺は確かにこの人達に愛されていた。
 

愛してくれているから、目頭を押さえていた父さんは、目を充血させていた母さんは、両親を拒絶してしまっている兄貴は、こうして居場所を形作って俺を待ってくれている。


今なら分かる、各々俺の帰りを待ってくれているんだと。


失踪を起こして15年経っても、家族は俺の生を強く信じてくれているんだ。