「悔いは残したくないでしょうから、あんたの好きにしなさい。けど約束は忘れないでよ」
「また帰って来るよ。絶対に戻って来る」
約束だと目尻を下げる。
信じてくれる彼女と一度だけ、抱擁し合い、俺は玄関に向かった。
こうして見送ってくれる彼女が起きているということは、もう片方の酔っ払いも狸寝入りしているに違いない。
まったく空気を読んでくれる親友だな。
えーっとKYっつーんだっけ?
あれ、それは空気が読めない人間を指すんだっけ?
んじゃあ、ノットKYだな、親友は。
「いってらっしゃい」
履き慣れたスニーカーを履いてしまった俺に、いつもの言葉を掛けてくれる彼女。
俺達は決して恋人ではない、ただの両想い同士だ。
だからこそ余計な言葉を掛けず、彼女は俺を見送ってくれる。
俺は彼女に向かって、満面の笑顔を作り、ドアノブに手を掛けて挨拶を返した。
「おう。いってきます」
⇒5章